フォントには様々な分類方法があり、今のところ、絶対的な分類は確立されていない。フォントを勉強する立場からすると、パキっと分かりやすく分類してほしいのだが、そう簡単にはいかないもののようだ。
フランスのマクシミリアン・ヴォックス(Maximilien Vox:作家、フランスの文字・タイポグラフィーの歴史研究家、1894-1974)は、時系列のタイポグラフィーの進化に沿って、フォントを分類した。フォントについて、歴史的な視点で俯瞰するのは、頭の整理に役立ちそう。
この歴史的な変化は、カリグラフィー的な「書かれる文字」から、デザインされ描かれる「構築される文字」への進化、と言えるのかな。
おそらく1400年代から1700年代の分類については特に、ほとんど同じに見えるとは思うのだけど、じーっと眺めたり、遠目から見たりすると少しずつ違いが見えてくる…かも…。
before 1400
プレベネチアン(Pre-Venetian)
Pre-Venetian (Fraktur)
イングランドとフランスの間で百年戦争が始まったり、ペストが大流行した時代。
マクシミリアンは、この時代の文字をプレベネチアンと分類している。代表的なものは、フラクトゥール(Fraktur)。中世ヨーロッパで広く使われた、写本やカリグラフィーを基にした字体。ブラックレター(Blackletter)とも。
Wikipediaでは、ブラックレターの一種がフラクトゥールであると解説されていて、ここだけでも色々な解釈と分類があることが分かる。
1400-1500
ベネチアン(Venetian)
Venetian (Centaur)
オスマン帝国により古代から続いてきたローマ帝国が滅ぼされ、中世の終わりとも言われる時代。大航海時代、ルネサンス文化、宗教改革。
この頃の字体はベネチアンと分類されていて、ヒューマニスト(Humanist)、ルネサンスアンティーク(Renaissance Antique)とも呼ばれている。
カリグラフィーで使う、金属製平ペン(broad-edge pen)で書かれた文字を連想させ、コントラストは弱め。中世チックなプレベネチアンから、わりと急に整った字体になった!ここの間は微妙な推移がなかったのか、気になるところ。
1600
ギャラルデ(Garalde)
Garalde (Stempel Garamond)
イギリスで清教徒革命・名誉革命、フランスではルイ13世の絶対王政。
オールドローマン(Old Roman)やオールドスタイル(Old Style)とも呼ばれる。ベネチアンよりも、カリグラフィー的な要素が弱まり、洗練された印象。
1700
トランジショナル(Transitional)
Transitional (Baskerville)
分類名のとおり、産業革命への過渡的な時期。
ネオクラシカル(Neo classical) やレイショナリスト(Rationalist)とも呼ばれる。縦軸が強調され、よりシステマチックな構造を持ち、コントラストは強くなっている。
1700-1800
ディドーン(Didone)
Didone (Bodoni)
ニューローマン(New Roman)やモダン(Modern)とも呼ばれる。文字の線がとても太いバージョンは、ファットフェイス(Fat Face)という。
Didoneという言葉は、有名な2つのフォント、ボドニ(Bodoni)とディドット(Didot)を合わせた名前。トランジショナルの相似形だが、ロマンチシズムの影響を受けて、より縦線が強調され、現代的な形と極端に強いコントラストを示している。
スラブセリフ(SlabSerifs)
Slab Serifs (Clarendon)
スクエアセリフ(Square Serif)とも呼ばれる。有名なクラレンドン(Clarendon)やエジプシャン(Egyptians)も含まれる。
時系列的にはディドーンに続くのがスラブセリフ。スラブとは「平たい板」という意味で、セリフは「文字の縦線や横線につく飾り部分」。つまりスラブセリフとは、セリフが平たい板状になっている字体のこと。
スラブセリフは、商業的なニーズから生まれたフォント。19世紀に先立って、産業革命が起こり、印刷業においてもより多くの本が印刷されることになった。そのために大きくて太字の目立つフォントが必要とされたが、単純に今までのフォントを大きく幅広にしただけでは読みにくかったので、このスラブセリフが誕生したそう。
初期のアンブラケットバージョンがエジプシャンで、ブラケットバージョンがクラレンドンとして知られている。
サンセリフ(SansSerifs)
Sans Serifs (Univers)
時代はまだ19世紀。
グロテスク(Grotesque)、ネオグロテスク(Neo-Grotesque)、ジオメトリックサンセリフ(Geometric Sans Serifs)や、ヒューマニストサンセリフ(Humanisut San Serifs)を含む。
サンセリフのデザインは、1800年代の初期に初めて登場した。サンとは、「〜がない」という意味。つまりサンセリフは、「セリフがない」フォントのこと。その飾り気のなさが当時の人々にはショッキングだったようで、”グロテスク”と呼ばれ、ファットフェイスやスラブセリフの人気に押されほとんど無視された(!)存在だったとか。1920年代になると、そのシンプルさが受け入れられ、人気を博すように。
統一感や合理性を追求し、より幾何学的に構築されたフォントが、ジオメトリックサンセリフ。20世紀になると、ヒューマニストサンセリフ(カリグラフィーに影響を受けたサンセリフ)も登場し、様々にアレンジされながら発展していく。
セリフがないだけでこんなに拒否反応が起こるって、なかなか現代人には想像し難いものがあるなぁ。
1900-現在
ディスプレイ(Display)
Display (Century Gothic)
Display (Courier)
Display (Copperplate Script)
グリフィック(Glyphic)、スクリプト(Scripts)、タイプライター(Typewriter)、モノスペースド(Monospaced)、デコラティブ(Decorative)、やコンテンポラリー(Contemporary)なフォントを含む。
ディスプレイという分類だけで1日が終わりそうなほど、たくさんの種類がある…。ディスプレイとはつまり、見出しやポスターなど、文字を大きく表示するのに向いている字体(逆に言えば本文向きではない)だが、ひとくくりにするには幅がありすぎるような。マクシミリアンさんは1974年には亡くなっているので、現代の分類は、これから、というところなのだろうか。